セノ。
呼ばれて振り返ると突然口を塞がれた。
「んっ」
ちゅ、と小さな音がしたと思うとそれはすぐに離れていく。小鳥が啄むようなバードキスが雨のように降ってきて、思わず息を止めていると、それに気付いたティナリがふふっと笑い声を漏らした。
「ちゃんと息しなよ。相変わらず下手くそだよね」
「……うるさい。お前が突然してくるからだろう」
深く息を吸ってから反論すると、また笑われた。
「ごめんね、キスしたくなっちゃって」
かわいかったよ、とまるで慈しむように髪を撫でられて、また顔が近付く。
「ん、む……」
触れるだけのキスがまた再開される。離れては角度を変えてまた、触れて。何度繰り返しただろうか。
「セノ、口開けて……」
常より僅かに低い、二人の間の隙間に響かせるような声でティナリが求めてくる。今日のティナリはやたらとキスしたがる。だがそれに抗えない。
嗚呼、今日も呑まれる。
セノはキスが好きだ。本人に自覚はないかもしれないけれど、いつもたくさんのキスを求めてくる。その時の嬉しそうにとろんとしたセノの表情がティナリは好きで、その要求に応えてやる。
それを無性に見たくなって、今日はティナリからキスを求めた。
「……っは、ぅん……」
ティナリが差し込んだ舌に、不器用にセノが舌を絡めてくる。息を吸う声も、鼻から抜ける甘えるような声も、何もかもがかわいい。いつまでもそれを聞いていたくて、離してあげられない。
舌の裏を、上顎を、歯列の裏を、撫でていく。
「ん、ふ……ぁっ」
上擦った声がセノから漏れる。
「はっ、……は」
セノの息が上がり始めたのを見て、一度ティナリは解放してやった。
「は……ぁ、はぁ……」
肩で息をするセノの頬は上気して染まり、目には涙が張っている。綺麗な赤い宝石がきらきらと光った。
あぁもう、かわいいな。
「んっ、」
まだ息の整い切っていないセノの口を再び塞ぐ。
「まっ……ティナ……んん」
文句を言いたげなセノを無視して何度も何度も深く口付ける。セノの手を探って、指を絡めて、ぎゅっと握る。僅かな隙間も埋めるように。