世界の果て

MEZZO”のダブル主演で映画のオファーが来るのは何も今回が初めてではなかった。それをありがたいと思うし、何より今回も隣に環がいてくれることを壮五は心強いと感じている。

「世界の果て?」

今回の映画の舞台は少し未来の世界で、世界の最期の日に向かう二人の青年の物語だそうだ。

「はい。お二人の役柄は混乱する街で偶然出逢い、最期の日を共にする、という設定だそうです」

マネージャーからそれぞれの役柄を大まかに聞き、なんとなくその話を受けたいなと思いながらも後日改めて返事をするということになり、環と共に寮へ戻る。

「そーちゃんは、世界最期の日、何したい?」

夕食の後、壮五の部屋を訪ねてきた環は唐突に切り出した。

「……あぁ、映画の話かい?」
「うん」

ややあって壮五が聞き返せば環は首肯する。

「そうだなあ……本当なら応援してくれたファンの皆さんの一人一人にありがとうって伝えて回りたいところだけれど、そんな時間はきっとないだろうし……やっぱり、ライブをしたいな」

答えを出すと、環はふふっと笑う。

「僕なにか変なこと言ったかな?」

不思議に思い、壮五が尋ねる。すると環は、今度は首を横に振った。

「いや、思った通りだなーって」
「そう、なんだ?」

壮五は環の言葉に少し面食らう。僕はそんなに分かりやすいのだろうか……?

「だってそーちゃん、歌いながら死にたいとか言いそーだし」
「それは……そうかもしれないね」

なるほど、環は壮五という人間をよく分かっている。環の言葉に、自分を顧みれば確かにそう言いそうだ。

「環くんは? 最期の一日、どう過ごしたい?」

すると環はきょとんとした顔で壮五を見る。まるで同じ問いをされるとは思っていなかったとでも言いたげだ。

「俺?」
「そう」
「俺は……理に、会いたい」

一瞬のためらいのような空白ののち、環は絞り出すような声で言った。

「……そうか。そうだよね」

環の気持ちや事情を考えれば、彼がそう答えるのは当然だった。けれど、心のどこかで「俺もライブしたい」と答えてくれることを一瞬でも期待した自分がいた。そしてその答えがもらえなかったことに、自分勝手に傷ついたことに壮五は驚く。

「けど、歌もダンスもしたいから、理を呼んで、そーちゃんと一緒にライブやりてー」

そんな壮五の心を読んだのか、はたまた偶然だったのかは本人にしか分からないが、環はそう付け足して、なーんて贅沢かな? といたずらっぽく笑った。

「……っぁ」

けれど壮五は、それが環の本心だということだけは分かっていた。
それが分かる程度には、二人は隣に並んできたから。
それが分かってしまえるほど、壮五は環を見てきたから。

「え、ちょっ、そーちゃん泣いてんの!?」
「泣いてなんか、ない」
「いや泣いてるし!」

こんな情けない顔を見られたくなくて壮五は俯く。環はあたふたとし、ごそごそとしていたが何かを諦めたのか、壮五の顔へ手を伸ばしてきた。

「ハンカチ持ってなかったし、これでがまんして」

そう言って、いつかのように洋服の袖で壮五の目元を撫でる。その手つきが優しくて、泣き笑いのような顔になってしまう。

「ありがとう」
「まーな。俺、相方だし」

得意げな環の声が頼もしくて優しくて温かい。背中を預けて。手を取り合って。隣に立って。この人とはずっとそうありたいと思った。

「環くん」
「んー?」
「もう一つ、やりたいことがあった」

言葉にするのは苦手だ。どう言えばうまく伝わるのか、どう伝えるのが一番なのか、そんなことを考えて結局言葉にする前にみんなどこかへ行ってしまうから。
けれどその気持ちはただ一言たったの二文字。ほかに言い換えることもない。それに、環はそんな壮五の言葉をいつまでも待っていてくれる。

「僕ね、環くんのことが──」

その言葉は環の、春の空を写し取ったような瞳に吸い込まれていった。
きっと明日世界が終わっても、僕はもう後悔しない。