「好きなバンドの曲の歌詞に出てくるんです」
ソウはそう言ってそわそわしながら洒落た名前のカクテルを注文した。曲の歌詞に出てくる酒が飲んでみたいなんて、どれだけ大人ぶっていたってソウも案外子どもっぽい可愛いところがある。そんなことを考えながら、俺は運ばれてきたビールを乾杯と掲げて煽った。
……のが一時間程前の話だ。
「やまとさん〜ぼくこれ飲みたいなぁ」
それが今ではすっかり出来上がってしまって、座敷に座った俺の膝の間にすっぽりと収まってしまっている。
ミツはといえば早々に真っ赤な顔で潰れてしまい、今は隣で俺のカバンを抱いて寝てやがる。この野郎、俺に全部押し付けやがって……今度覚えてろよ……
「ダメですーソウはこれ以上飲んじゃダメ」
「な〜ん〜で〜」
「そんな状態でこれ以上酒飲むやつがあるかってーの。お水飲んでなさい」
「やだ〜」
これじゃあ本当に聞き分けのない子どもだ。まさか酔ってこんなスイッチが入ってしまうだなんて思わない。それほど普段の凛とした姿とはかけ離れた光景が目の前に広がっている。
「……まぁ、これもこれで可愛くはあるんだけどさ……」
する、と色の薄い髪を梳く。さらりと指の間をすり抜けていく髪には初めて触れたが、心地よかった。
「やまとさん、なーに?」
腕の中から見上げてきたその紫色の宝石は、くりくりと見開かれている。こいつはまだ寝てくれないのだろうかと半ば絶望的な気分になった。どれだけ可愛くったって面倒なのは変わりない。
「なんでもないよ」
それでも、その面倒を引き受けるのはきっと俺の役目なんだろうと思う。
「ふーん?」
ぱちくり。数回の大きな瞬きののち、ねーやまとさん、とおねだりが再開される。
さーて、オヒメサマはいつ眠りについてくれるんでしょうか? なんて、冗談めかして言ってみたくなった。